1年目のじぶんみらい科で、生徒とともに学校をつくる先生たちを紹介するインタビュー!第9弾は理科を担当する中谷杏兵(なかたに・きょうへい)先生にお話をお聞きしました🌱
——中谷先生は理科を担当されているそうですね。3年間での目標や大切にしていることがあれば教えてください。
僕が理科を教える中で目標にしているのは、みんなが3年後「科学にひらかれて、世界を存分に享受できる身体を獲得する」っていうことなんです。
——ただ知識を得るだけの理科じゃなさそうですね……!
これだけ聞いても伝わりづらいですよね。例えるなら、コップは伏せたままでは水を注がれても受け取ることができないですよね。受け取るには、コップの口を上に向ける必要がある。それと同じで、五感で感じたり何かを体験するときに、ちゃんと受け取れる状態をつくるのが目標です。そのために科学の知識を身につけたり、起こっていることを受け取る感受性を備えた身体を得てもらいたいなと思っています。
——理科を通して得たことを、またあたらしい体験をする上での土台にするんですね。
そこを目指していますね。それをじぶんみらい科でいくつかの教材を使い分けてどう表現していくか、それぞれの役割を日々考えているところです。
実際に手を動かして五感でものと対峙するのは、スクーリングの役割だなと思いましたし、チャットで交流できるライブ授業は、声の大きさに違いがないからこそいろんな生徒が発言できて、自分の意見と他の人の意見を交流させる、対話の場にもできるのかなと。
自分なりの学習習慣や勉強の仕方は、ビデオ授業やレポートから自分のリズムを見つけてもらえたらなと。10年後、学んだこと自体は忘れてしまっても、自分なりの学習習慣として習得したことは残っていくと思うんです。
——それぞれの学習に役割があるんですね。では、中谷先生から見たじぶみら全体の良いところを教えてください。
集っている先生たちが、いいなと思いますね。同じ仕組みの学校があっても、違う先生がやったら違う学科になるんじゃないかと思うんです。この学校にいる先生たちが、じぶんみらい科とシンクロする形で集まっているところが、一番の魅力だと思います。
——先生たちがすごく自然体で、授業動画をはじめ、いい意味で手作り感がありますよね。
僕もこの附属高校に来て、生徒に嘘をつかなくていい働き方ができているなと感じています。ちゃんと心と体が一致した状態でその場にいるっていう、当たり前のことなんですけど、きっとそうじゃない先生たちが全国にはたくさんいるんですよね。
——中谷先生自身は、どんな思いやきっかけがあって附属高校に来られたのでしょうか。
働き方をいろいろ模索していた時期に、附属高校ができると知ったのがきっかけでした。
もともと大学では海洋生物資源学科に通っていて、就職に悩んだ末に学校の先生になったんですが、いざ教壇に立ってみると、成り行きで先生になった僕のしゃべっていることは、生徒には全然響かないんです。心の底から思っていることじゃないと、生徒には伝わらない。
生徒指導にしても、スカート丈とか、携帯電話とか、自分はなんでこんな指導をしているんだろうっていう不自然さを感じるし、どんどん心と行動が乖離してしまったというか。その後も4年間は全日制の高校で働いていたんですが、放課後や週末も部活動や仕事に追われていて、何かを犠牲にしないと続けられない働き方にも違和感を感じていたんです。
——それで附属高校に。働きはじめてみて、いかがでしたか。
自分の中にあった引っかかりが解消されましたね。世の中には、生徒のために自分を犠牲にするという先生もいますが、僕は心の底からそういうふうには思えないなと。自分が腹の底から考えられるのは、自分の息子が大人になったときに、同僚や上司にあたる生徒たちがどんな人であってほしいかだったんです。今はそうした目線でなら、偽りなく真剣に生徒に向き合えるな、と感じています。
——先生たちのそうした嘘のない姿も、じぶんみらい科の魅力につながっているのかもしれませんね。最後に、じぶんみらい科の3年間でこんなふうに過ごしてほしい、という思いがあれば教えてください。
何か障害を捉えるときに、本人に問題があるとする発想を「個人モデル」、社会に問題があるんじゃないかという考え方を「社会モデル」と言うんですが、そういうふうに、今生徒が「できない」と感じていることは、個人の能力の問題じゃなく、発揮できない環境が問題なんじゃないかと思うんです。そこを、大人はもちろん、生徒たちにも自分の可能性を正しく認識できるようになってもらいたいです。
「なんだやれるじゃん」って、生徒が自分を信じられるようになったらいいなと思っています。
中谷杏兵(なかたに・きょうへい)先生 / 理科
ニックネーム…きょんちゃん
おすすめアニメ…『王様ランキング』
境遇のせいで自分に自信が持てなかった主人公が、旅をしていく中でいろんな人と出会って少しずつ成長をしていく過程に、強さや優しさってなんだろうと考えさせられます