「いただきます」の授業 ~大阪・関西万博「EARTH MART」を起点に考える~

授業をしているつもりが、気づけば自分が一番学んでいた——そんな瞬間がありました。
先日、大阪・関西万博内にある、京都芸術大学副学長・小山薫堂先生プロデュースのパビリオン「EARTH MART」を題材に、生徒たちと一緒に「ITADAKIMASU」という言葉の意味を考える授業を行いました。
この「ITADAKIMASU」という言葉は、パビリオンの入口に掲げられた大きな暖簾にも描かれており、EARTH MARTにおける根幹のキーワードだと小山先生は語ります。授業では英語科としての視点に加え、他言語や文化・宗教との比較も行い、さらに保健体育科のたかぎー先生にも協力をいただき、各国の食育や戦火にある地域の食事情などにも目を向けました。
<「EARTH MART」入り口にかかる暖簾。大きく「ITADAKIMASU」の文字が。>
自分だけの「いただきます」
授業では、生徒たちに「食事の前に特に感謝したい対象」を考えてもらい、それを英語にして“自分だけのいただきますフレーズ”を作りました。
命や自然に感謝する人、食の流通を支える人々に思いを寄せる人、さらには飼っている犬や猫にまで感謝を広げる人もいて、出来上がったのはどれもユニークで温かいフレーズばかり。
私自身も生徒と一緒に考えてみると、思い浮かんだのは「おじいちゃん」と「雨」でした。
田んぼの真ん中で育って思うこと
<私の育った場所。農道の両側には稲田が広がる。少し行くと瀬戸内海に出て、牡蠣が美味しいことでも有名。>
私は瀬戸内海沿岸の出身で、子どものころから祖父母や地域の人々が田んぼで米を育てる姿が日常にありました。祖父には「米を残すと目が潰れるぞ」と言われながら育ち、物騒なことを言うものだと思いつつも、早朝から田んぼに向かう祖父たちの姿や自分の手伝いの経験から、「八十八の手間(八・十・八を重ねると米という漢字になる)」がかかることを知らず知らずのうちに実感していました。その体験が今も自分に残り、米粒を粗末にできない気持ちにつながっています。
<用水路の水量を調整する樋門。鎖を引いて開閉するが、どのくらい鎖を引いたか、途中で必ず分からなくなる。今思えばいい加減な手伝いばかりしていた>
また、祖父の天気予報は必ず当たっていました。長年、稲を育てるために空の動きを読み続けてきた経験によるのでしょう。稲は雨や太陽がなければ育ちません。晴耕雨読という言葉もあるように、祖父の姿を通して「自然があって初めて人の営みが成り立つ」という姿勢が自分にも染み込んでいるのだと思います。
<畑では野菜や果物も作っている。お盆に帰省した際に収穫した野菜たち。実家では野菜泥棒が出たと騒ぎに。>
日常にある感謝の機会
「いただきますとは感謝すること」という小山先生の言葉を受け、生徒に「感謝の気持ちを いただきます に込めてみよう」と投げかけておきながら、実は自分自身がその言葉をきちんと口にしていないこともあると気づきました。生徒の考えに触れることで、改めて自分が大切にしていることを思い出す機会となったのです。
それ以来、意識して「いただきます」を口に出し、祖父や自然に思いを馳せる時間を持つようになりました。感謝するという行為そのものが心身に良い影響を与えると、今回の授業でたかぎー先生から学んだこともあり、1日3回、食事のたびに感謝の機会に立ち止まろうと思っています。
生徒から学ぶということ
このように、授業を通して生徒と一緒に考えることで、自分の思考が整理され、新しい視点を得られることが多くあります。教師という立場でありながら、生徒から学び続けられることに、改めて感謝しています。
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