生徒の優しさを、ひとりの人間としてリスペクトしています。− 先生インタビューvol.7|巽 紫文 先生
1年目のじぶんみらい科で、生徒とともに学校をつくる先生たちを紹介するインタビュー!第7弾は美術を担当する巽 紫文(たつみ・しもん)先生にお話をお聞きしました🌱
いつも生徒の経験はリスペクトしています
——じぶんみらい科がはじまって数ヶ月経ちましたが、巽先生は完全オンラインの学科ができると聞いたときにどんなふうに感じられましたか。
じぶんみらい科ができると聞いた瞬間、「絶対に僕もじぶんみらい科で教えたい!」と思っていたので、今年着任できて念願叶ったという感じです。
——そうだったんですね。附属高校では、開校2年目から働かれているとお聞きしました。この学園に来たきっかけがあれば教えてください。
もともと大学を卒業してすぐ4年間だけ全日制の高校で先生をして、その後は20年近く某専門学校でデザインや美術の講師をしていました。
最初に全日制で教えたときは、自分もまだまだ若いし社会を知らないのに「先生たるもの、子どもたちに社会を教えなあかん」と固定観念にとらわれて全然うまくいかなくて。形だけ偉そうにしても、そういうことって全部生徒に伝わってしまうんですよね。とにかく自分に経験も引き出しも無さすぎて、いったん、高等学校の現場を離れることにしたんです。
次に勤務した専門学校で教えるのはすごく楽しかったんですが、やっぱり高等学校での教員としての経験や学びが忘れられなくて、また高校の先生をやってみようと思ったのが附属高校に来たきっかけでした。
——附属高校で改めて高校の先生をしてみて、何か変化はありましたか。
だいぶブランクも空いてましたし、通信制高校で働くのも初めてで緊張しながらのスタートだったんですが、生徒の優しさにすごく感動しましたね。うちの子たちはここに来るまで様々な経験をした子、既存の学校教育に疑問を抱く子も多くて、だからこそ人の痛みや苦しさをわかる優しい子、自分にとって必要な学びの形を追求する子たちが多いなと。
例えば一人で過ごしている子がいても、「なんであいつ一人やねん」とはならない。それぞれがそれぞれの時間を過ごして、お互いを認め合っているんです。そういう生徒の姿を見て、先生っぽい振る舞いをしないといけないとか、自分の方が年上だから偉そうにという思い込みは完全になくなりました。今はむしろ、年齢に関係なくいろんな経験を積んでいる生徒たちを、同じひとりの人間としてリスペクトしています。
——素敵な関係ですね。先生の担当科目である美術の教え方や内容にも変化はありましたか。
うちは美術科の高校ではないですが、やっぱり芸大の附属高校なので、対話をしながら作品を鑑賞したり、「芸術とは」という問いをみんなで考える授業や大学で実践されている芸術教育を参考にした授業など、他の中学や高校では体験できないような授業づくりは、僕自身も勉強になりましたし、根拠をもって教えられています。
それは評価するときも同じで、生徒が課題に対してどう考えてどう表現しようとしたのかというプロセスを辿っていくので、(教員の)主観で評価することがないですし、それを受け取る生徒たちの納得感も高いんじゃないかなと思います。

美術は“塩”みたいなもの —— 生活の中で感じる美術の魅力
——じぶんみらい科でもデザイン思考をはじめ随所に芸大の考え方が生かされていますよね。では、じぶみらがはじまって、オンライン授業をする中で感じていることはありますか。
まだまだ模索中ですが、オンライン授業(を考えるように)になってから、より授業の流れを細かくつくるようになりましたね。対面授業の時以上に、いかに五感を使って授業を体験してもらえるかを、時間をかけて考えています。
あとは、一緒に美術の授業を担当しているりさてぃとお互いの作った授業動画を見せ合うこともあるんです。りさてぃはすごく勉強家なので、僕の知らない知識やアイデアからフィードバックをくれて、すごく参考になっています。

——先生同士でも影響を受けあって、授業をさらにブラッシュアップしているんですね。授業をつくりながら、どんなところに美術のおもしろさや魅力を感じていますか。
僕は美術って「塩」みたいだなと思ってるんです。
——塩、というと。
塩って、なくてはならない存在だけど、単体で舐めてもしょっぱいし、おいしいかどうかよくわからないものですよね。でもそれがいろんな食材と絡まることで、おいしい料理になる。美術も塩と同じで、デザインやファッション、建築や料理の盛り付けなども含めて、いろんな分野と混じり合うことで美術の魅力や必要性が見えてくるんだと思います。
——美術館に飾られているアート作品だけが美術ではないんですね。
アート的な要素や考え方っていうのは、身近なものごとにちょっとずつ入っているんです。なので美術を学ぶだけでもいいけれど、うまく生活に照らし合わせて考えていくと、ただ日々を生きるだけじゃなくて、楽しみながら日々を生きられるようになるのが、美術のおもしろさなんじゃないかなと思います。
——自分だけの美術のおもしろさにつながっていきそうですね。最後に、じぶみらの美術で大切にしていきたいことや、目標があれば教えてください。
東北から九州まで、住む場所が離れた生徒同士が同時に授業を受けるようなおもしろい現象がオンライン授業を通して実現できています。価値観や環境、文化がそれぞれ違うからこそ、色彩感覚、味覚、見えているものも生徒それぞれによって違うことに触れられる授業ができたらいいなと思っています。
そして、違いに触れながら、「自分はこう思う」と自分の言葉で言えるようになったらいいですね。生徒たちの優しさが、相手の様子を気にしすぎて自分の主張ができなくなるんじゃなくて 自分の言葉で自分の思いを伝えられるようになってほしいと思っています。
——先生同士でフィードバックを送り合うことがプラスに繋がっていくように、伝えるからこそ感じる嬉しさや優しさもありますよね。
録画した授業や、ライブ授業、スクーリングと、それぞれの良さを生かしながら、オンラインの学校だからこそ、人間的な繋がりの部分も大事にしていかないとなと思っています。

Profile
巽 紫文(たつみ・しもん)先生 / 美術科・学年主任
ニックネーム…さいもん
おすすめ映画…『PERFECT DAYS』
じぶんみらい科の職員さんから教えてもらって見た映画です。なんてことない日常なんだけどきっとパーフェクトで、完璧は日常にあるんだというのを発見させられる映画でした。
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